土曜の朝。
早朝にお姉ちゃんを部活に送り出してから
ママは眠すぎて二度寝。
再びママがボクと一緒に目覚めたときには、パパが書斎で仕事をしていました。
パパ「おはよう! カレーパン食べたよ」
ママ「おはよう。あぁ、よかった」
パパは、テーブルに買い置きのパンを並べておいたので、ひとりで朝食をすませていました。
ママ「お兄ちゃんも起きて~! 今日は歯医者さんだよ~(毎月通っている矯正歯科)」
ドタドタドタドタ(階段を下る音)。
お兄ちゃんも起きてきました。
ママ「ドーナツあるよ~。食べよ~」
お兄ちゃんもボクもドーナツが好きだから、すぐに席に着きました。
すると、ふと、ボクが目についたデジタル時計を手にとりました。
「ピッ」
お兄ちゃん「ボクが時計のリセットボタン押した!」
ママ「え~、も~。押さんで~。なんで押すの?」
新しいデジタル時計。
昨日、日付と時刻を合わせたばかり。
おとなには、細いピンの先でしか押せないはずのリセットボタンが、ボクのちっこい指先では簡単に押せるらしい。
そしてまた、なぜか押したくなる位置にあるようで、2度も3度もリセットされて、昨晩、合わせなおしてテーブルに置いたのでした。
ママ「ちょっと強くいってしまった」と思った途端・・・
ボクは黙って席をたち、隣の部屋で、バランスボールに座ってこちらを見て一言。
ボク「もう朝ごはん食べん」
ママ「なんで~!」
ボク「リセットボタン押してないし」
ボクは目の前で見ていたことでも、立場が悪いとよく嘘をつくのでした。
お兄ちゃん「押しとった! わざと押したんじゃないかもしれんけど、そういう時は“ごめん”やろ!」
ボク「やってないしぃ~!! エ~ンエンエン ワ~ンワンワン(すぐ泣く)」
ママ「え~? 何で泣くの? うっかりやってしまったことでも、“ごめんなさい”っていわんと~。ママが強くいいすぎた? それは誤る。ごめんね」
ボク「ちがう~。エ~ンエンエン」
機嫌が悪いボクは、しょうもないきかっけで、長時間泣くのでした。
その間にお兄ちゃんは朝食を済ませて、歯磨きをして、出かける準備完了。
パパ「歯医者の帰りにお兄ちゃんとパパはお昼ご飯食べてくるから、ボクも一緒に来るかい?」
ボク「エーンエンエン。ママがいじわるしぃた~」
もう何も耳に入らないモードのボク。
パパ「ボク、一緒に来ない? もう行くよ」
お兄ちゃんの歯医者の付き添いは、ボクにとって、いつもならとても楽しみなはずのお出かけなのでした。
ママ「ボク、行きたいんでしょ? 置いていかれるよ。早くおトイレ行ってから、着がえなよ」
泣いているボクをソファーから引きずりおろして、抱っこして、トイレに連れて行きました。
体勢を変えることで、パッと我に返ることもあるのです。
ボク「ママがいじわるし~たぁ。エ~ンエンエンエン」
トイレに座り込んでしまいました。
そして泣き続けます。
もう、ここまでこじれると、ママも破れかぶれです。
サイレンの鳴り響く非常事態のようで、「なんでいつもこうなるの」という情けないような気持ちに包まれます。
再び車からパパが戻ってきて、再確認。
パパ「本当にもう出発するよ~」
ママ「もうパパたちいったよ。おトイレに用事ないなら、出ておいで」
出かけるなら、トイレに行く必要があったけど、もうそれも叶わず・・・。
出てきて、また泣き続けます。
そしていい続けます。
ボク「ママがいじわるし~た~」
ママ「ママはいじわるなんかしてないよ。
ボクが“いじわるしてる”って思ってることあったら、それは誤解よ。
ママは、ボクがパパたちと一緒に行きたいだろうと思って、お手伝いしてるだけだよ」
泣いてようが、ほんとの気持ちを伝えようと、説明をするママ。
そしてまたひとしきり泣き続けるボク。
ボク「ママがいじわるし~た~」
ママ「ママはいじわるしてません!」
ボク「・・・した。・・・カレーパン・・・。しかももう、歯医者も行けんやぁ~ん」
ママ「え~~~~~~~~~~! カレーパン食べたのパパだよ!」
ボク「カレーパン、ボクくんも食べたかったのに、1個しかなかった。ママがいじわる」
ママ「え~~~~~~~~~!! そうだったの? なんで~! いじわるのつもりじゃないよ~。
食べたいならちゃんと言葉でいってよ~。
“ボクもカレーパン食べたい”っていったらすぐ買ってこれたのに~!
すぐに買いにいけない時もあるけど、そんな時は “ごめんだけど、明日ね”っていうかもしれないけど
すぐいえたら、ボクもカレーパン食べられたよ。買ってこようか?」
ボク「もう遅いしっっ! ドーナツ食べるしっっ!」
伝わったことで、気が済んだのか、やっと行動が前に進んだように見えました。
気持ちの処理がついたのです。
おもむろに、口に放り込んで、ボロボロこぼしながらドーナツを頬張るボク。
ママ「だけど、いえたじゃん! あとになってからでも、思ってることちゃんといえたね~!
カレーパン、今からでも食べるでしょ? 買ってくるよ。それに、言葉でいえたから、ご褒美に何か飲み物も買ってこよう?」
ボク「コーラ」
ママ「わかった。じゃぁ買って来たら食べてね! ママ、すぐ買って来るね」
自分の気持ちが、言葉になりにくいのは、ASDの特性だといわれますが、ボクにもとてもよく当てはまります。
なぜ、その時いわないのでしょうか。
まるで「ボクの気持ちにいわなくても気づけ!」と試されているような気持ちがします。
だけど、そうではないんだと思います。
周りから見れば、何でもないようなこと、ちっぽけな思い通りにいかないことが、ボクにとっては、受け入れがたいほどのショッキングな現実となってしまうように思います。
繊細なゆえ、そのショックに打ちひしがれて、何もいえなくなってしまうのかな?
ちゃんと確固たる原因はいつもありんです。
自分から気持ちがいえた時は、ボクに分かりやすく、おもむろに褒めてあげようと思ってます・・・というか、それまでの耐久時間が長すぎて、ママとしては嬉しくて、めでたくて、そうなってしまうのも確かでした。
朝、起きたとき耳にしたパパの一言、「カレーパン食べたよ」が、発端だったとは・・・。
ボクがそんなにカレーパン好きだったと気が付かなかったママが悪い!?
いえ、そんなわけじゃぁない。
こんなにカレーパンに反応したのは、今朝が始めてな気がします。
無事、カレーパンを食べた時のボクの満足そうな顔といったらありませんでした。