お姉ちゃん お姉ちゃん 入院 入院 心療内科 摂食障害 摂食障害専門医 面談

2度目の面会

4.1 お姉ちゃんとの2度目の面会でした。

「今日こそ、ちゃんとママの言葉で、入院治療の大切さを、お姉ちゃんの心に届くように伝えよう!」
そう思って、病院に行く運転中のおよそ1時間、何度もお姉ちゃんに話すことを、おそらく3分〜5分のふたりだけの短い時間内に的を得て話せるよう練習しました。

前回は、お姉ちゃんの訴え=「帰りたい。うちでもちゃんと体重増やせる」という気持ちを、治療へと向き直させるだけの言葉を伝えられずに終わりました。
目的の分からない中で、行動制限を強いられるのは、治療のあるべき姿ではないし、息苦しくて辛いと思います。
今お姉ちゃんが耳に真っ直ぐ言葉を届けられるのは、ママだけかもしれないし、私はきちんと役目を果たさなければ!! 

お姉ちゃんと会う前に、主治医から、近況報告と、この後のお姉ちゃんとの面会時の対応についてアドバイスがありました。
主治医から聴いた近況報告は以下でした。
・月曜から、宣言通りに1,400kcal全量食べれています。捨てていないと思われる。
・体重は1週間で500g増。27.6kg。
・発言に2面性があり、主治医には不満を口にせず、むしろ体調はいいようにいうが、担当医には、以前より不平不満を口にする。
・先週よりもさらに強く帰りたいといっている。
・睡眠を助ける薬として薬を飲むよう薦めるが、朝、薬(の効き目)が残っていてふらつきがあるから飲みたいくないという。
・睡眠を助ける薬は、正確には睡眠薬ではなく焦りを少なくする薬で、統合失調症の方などが飲む薬。
・低体重だと焦りが出やすいので、薬で落ち着くようにして眠れるようにしている。
・体重を増やすためにカロリーを増やすことができないのは、体重が戻って普段通りの自分に戻った時に、目を背けたい考えたくないことがあると推測できる。
・頭のふあふあ感を訴えている。考えすぎてオーバーヒートしている状態です。
などでした。

何もない部屋で、考えることだけを強いられている状況で、でも自分がなぜこんなことになったかのかを考えなければいけないのだけれど、それに向き合うことができないでいるのです。
考えをシフトできずに、暇を持て余しているという状況のようでした。

そりゃそうだろう・・・。

中学に入ってからは、部活に専念していて、半日の休みもないくらいでしたから、時間を持て余して苦しくなるのは、容易に想像できます。

その後、お姉ちゃんとの面会。

まずはお姉ちゃんの心身の状態の問診が20分ほどありました。

主治医「今日はどのような体調ですか? まだお腹痛はどうですか?」

お姉ちゃん「腹痛はないです」

主治医「眠れていますか?」

お姉ちゃん「薬を飲んでいるので眠れています」

主治医「朝はどうですか?」

など体調の問診の後、気持ちの問診へと変わる。

お姉ちゃん「落ち着かないです・・・」

主治医「どういう時に落ち着かないですか?」

お姉ちゃん「いろんな人が出入りする」

主治医「あぁ、ぼくも含め、回診の先生のことですか?」

お姉ちゃん「そうです。急に入ってきて落ち着かないです」

主治医「ほかの患者さんの先生の出入りの時間を決めることはできないですが。
お姉ちゃんの前まで行くのはぼくだけですから、ぼくは時間を決めましょう。
それでどうですか?」

お姉ちゃん「・・・息苦しいです」

主治医「お部屋から出られたら少しは気持ちが楽になりますか?
例えば、車椅子をぼくや〇〇先生が押して、外の景色を見に行くのはどうでしょう?
そんなことがあったら、気持ちが少しは晴れますか?」

お姉ちゃん「違います」

主治医「行動制限をしてお部屋に閉じ込めるというのが、この治療の目的ではないのです。
可能な限り解除しましょう。
何か、お姉ちゃんの思いつくことで、こうあったら少し楽になれるかもしれないっていうことを思いついたら教えてください」

そんなやりとりが続いて、結局、お姉ちゃんは、それも違うあれも違うといい

主治医「では、問題は別のところにあるのではないですか?」

お姉ちゃん「治療が・・・もうやめたい。辛い、苦しい」

主治医「どうしたら治療が続けられると思いますか?」

お姉ちゃん「・・・」

そんなやりとりが続きました。
お姉ちゃんは、顔を上げて、前を向いてはいましたが、心を閉ざしている様子で、曇った表情をしていました。

主治医「今日の問診は終わります。
3分間ほどですが、お二人きりにしますから水入らずでお話しください」

そういって、医師2人が退室しました。

お姉ちゃんは、すぐにママの方に向き直り

「帰りたい。もう1,400食べられる、ちゃんと食べられる!!
フライも肉も残さず食べてる。だから帰りたい。帰らせてお願い!」

ママは、背中をさすりながら、手を握って話しました。

「頑張ってること、先生からきいてるよ。
言った通り、1400食べられてるってね。
偉いね。頑張ってるね。

苦しいね。辛いし、淋しいと思う。
ママだって、おい姉ちゃんと一緒に暮らしたい。
元気ななお姉ちゃんと・・」

お姉ちゃん「もうお腹も痛くない。食べられるようになってる!」

ママ「お姉ちゃん、マスクとって顔見せて。
お姉ちゃんとママはさ、入院する前の4ヶ月くらいずーっとうちでやってきたよね。あの時はつらかったよね」

お姉ちゃん「もう、今は本当にうちでできるから。
血液検査も近くの病院でやるから」

ママ「うんうん。
先週あった時、お姉ちゃんに『帰りたい』っていわれた時に、うまく言葉が出てこなかったんだけど、ママはね、お姉ちゃんも入院したら早く治るとか、治療が必要って分かってると思ってたんよ。

ママは、お手紙書こうかなぁって、お手紙送ってもいいか先生に訊こうって思ってた時に、また会えるって先生から電話もらったからね、今日ちゃんと伝えようって思ってきたの。

それでどうやったら伝わるかをずーっと1週間考えていたの。
聴いてね」

そういったら、自分の吹き出すような気持ちを訴えていたお姉ちゃんの表情が、聴く顔に変わりママの目を見ました。

ママ「ママはね、お姉ちゃんは、心の事故にあったんだと思うの。
身体の事故なら、加害者がいるし、目撃した人もいるし、ひょっとしたら被害者も覚えているかもしれない。
だから、どうして事故にあったかが分かるし、その傷は目に見えるし、大怪我だったら病院の先生が手術するよね。
手術の時、麻酔もかかっているから当たり前だけど、途中で『痛いからもうやめてください』なんていわないよね。

お姉ちゃんは今、苦しくて辛いよね。
すごく分かるよ。
それはなんでかっていうと、お姉ちゃんは心の事故(で負った傷)の手術中だからなんだと思う。

心の事故だから、誰も見た人はいないでしょ。
いつどんなことで、お姉ちゃんが傷ついて、普通に食べることができなくなったか、誰にも分からないんよ。
分かる可能性がある人は、たった一人、本人、お姉ちゃんただ1人だけなの。

心の事故の手術っていうのは、その本人が考えることでする治療。

一時的に食べられなくなって、2キロや3キロ痩せる人はいると思う。
なんでか分からないうちに10キロ痩せちゃうなんて、お姉ちゃんは大事故にあったんだと思う。
だから今、その原因に気付いて治療する手術中なん。
辛くて苦しいけど、それをしないと治療は終わらないの。

だけど、1人じゃないんよ。
主治医も担当医も助けてくれるよ。
どんなふうに考えたらいいかわからないときは、お姉ちゃんが助けを求めたら、ちゃんと手助けしてくれる。
お姉ちゃんが二人の先生の言葉を素直に受け止めたら、絶対効率良く気付けるようになるんよ。

先生たちは、意地悪で閉じ込めてるのじゃないんよ。
ママだって、早く元気なお姉ちゃんと一緒におうちで過ごしたい。
だから、早く自分の事故の原因に気が付くように、先生の話よく聴いてね」

話し終わる少し前に、ノックが聞こえ、話し終わ直前に医師二人が戻ってきました。

お姉ちゃんが、まっすぐの視線で、ママを見ました。
確かに顔色が変わりました。
それは、謎が解けたというような表情に見えました。
もう「それでも帰りたい」はいいませんでした。

主治医「それでは、今日はこれでお別れです。
お姉ちゃんから何か言い足りないことはありませんか?」

お姉ちゃん「また会えますか?」

主治医「治療につながる面会であればもちろん可能ですよ」
と優しい声で答えました。

お姉ちゃんの骨張った小さな上半身を抱きしめて、
ママはいいました。
「先生たちは絶対ちゃんと助けてくれるから。
ママの 今 話したこと、もう一回よく考えてみてね」

頷きながらお姉ちゃんは部屋を出て、担当医に車椅子で部屋に届けられました。

主治医が、ママにもう一度腰掛けるよう右手で合図しました。
医師の目元に少し笑みがありました。

主治医「彼女の表情が変わりましたね。
なんとお話しされたのですか?」

会話の一部始終を話して、最後にママは付け加えました。

ママ「お姉ちゃんは、今、心の中の深い湖みたいなところに静かに潜っていって、静かに自分と向き合わなければいけないのだけど、その水面で『潜ったら息吸えなくて苦しいだろうなぁ』とか思って躊躇しているところだと思うんです。
本当は想像の湖だから息苦しいことなんてないのに」

主治医はよく頷いて聴いてくれ
「ありがとうございます。
理詰めで話すより、物語のように例えて話す方が、彼女に入りやすいのかもしれないですね。
お母様のお力をお借りできてよかったです。
また色々気付いいたことがあれば、教えてください」
と言いました。

ママが手応えを感じた・・・と思っても、それも確証は持てないです。

実は、お姉ちゃんの表情の変化は
「ママも医師と同じこというのか」と思った諦めの表情かもしれないのです。
つまり「誰も助けてくれないなら、自力でこの場からなんとか逃げなければ」という決意だったのかも。

来週の面会は、一体どんなふうになっているでしょう。

ご拝読ありがとうございます。❤ハートをポチッとして応援の気持ちを贈っていただくととても励みになります!

-お姉ちゃん, お姉ちゃん, 入院, 入院, 心療内科, 摂食障害, 摂食障害専門医, 面談
-, , ,

error: Content is protected !!